プロバイダ責任制限法の「改正」
Yahooニュースで2022年2月2日、ネット記事『「改正プロバイダ責任制限法」施行は誹謗中傷など匿名投稿の抑止力となるか?』が配信されている。
プロバイダ責任制限法が2022年10月に改正され、名誉毀損などの発信者情報開示手続きが簡素化されるなどの変更がある。そのことについて解説がおこなわれている。
法改正の中身はリンク先の記事での解説に任せることにして、ただでさえ「ザル」的なプロバイダ責任制限法の不備な点がさらに拡大されるのではないかという危機感を感じている。
というのも、現行のプロバイダ責任制限法でも、誹謗中傷や名誉毀損などの被害者の救済という本来の目的に使われることはハードルが高く、逆に「気に入らない言論を脅して抹殺する」という悪意の持った人物や集団の恫喝行為を正当化することにつながっている。その間違った方向性がさらに拡大するのではないかと、危惧を感じている。
現行の法制度では、誹謗中傷でもなんでもないような通常の言論でも、一度悪意をもったものから目を付けられ、「消せ」などと一方的に脅されると、対抗手段がほとんどないのが実体である。
今でもおかしな人たちが、自分にとって気に入らない、都合が悪いとみなした言論に対して、「自分への名誉毀損」などと根拠の薄い難癖を付けてプロバイダに殴り込みをかけ、何の根拠もないのに消させようとする事件も多発している。
「削除要請」が正当なものとは限らない
事件を報じたニュース記事の内容を新聞記事の内容に沿って紹介するブログを書いただけで、加害者が逆恨みし、ニュース記事の内容を否定できないからといって弱い者いじめのようにブログ作成者を攻撃するケースもある。
-
○○の2006年の不祥事について書くと速攻で弁護士から文句が来るので | ブログ運営のためのブログ運営(※注:当方も同じところから、同じ理由での嫌がらせを受けました)
- 教師不祥事列伝 : 発信者情報開示請求だって
ツイッターでも、元ネタを否定できずに、それをリツイートしたものに対して恫喝するような者もいる。
社会的不正を働いたものが、その行為への批判的な論評に対して片っ端から名誉毀損だと通報するケースもある。
政治家・大学教員・大組織など社会的な力を持つ人物や集団からの行為も含めて、そういうことが横行しているのが現状である。
当ブログでも、教育系というブログの性質からか「生徒への暴力や性的虐待などをおこないニュース報道された教師が、事件そのものは事実なのに否定できず、たかだかアクセスなどしれているようなこの程度の弱小ブログにすら目を付けて恫喝攻撃する」という被害を受けたことが数回ある。
プロバイダの側は、まともなところではサイト運営者側に問い合わせをおこなって判断する。しかし、サイト運営者側への問い合わせもおこなわず、削除要請が届いたから中身関係なしに機械的に削除するという行為をおこなうプロバイダも少なからずある。
不当な通報が認定されたケース
これは誹謗中傷ではなく著作権というやや別の角度の問題だが、編み物動画をネット上に上げていた人が、別の人物から「自分の動画の著作権侵害」と嘘の通報を受け、運営側は機械的に動画を消した問題があった。
原告と被告はいずれも編み物の動画を投稿するユーチューバーで、原告のアカウントには約1万2800人、被告には約3万500人が登録。それぞれポーチやバッグなどを編む手元の様子や完成作品を紹介している。
訴状によると、原告が投稿した「かぎ針編み」の動画2本について2020年2月、被告が「著作権を侵害された」とする通知をユーチューブに送信。ユーチューブは通知を受けて機械的に削除する仕組みで、原告は警告を受け、2本の動画は削除された。被告に「他の人の作品をまねた覚えは全くない。どの動画か教えてほしい」などと電子メールを送ったが、被告からは「疑問点はユーチューブに問い合わせて」などと返信されただけとしている。
毎日新聞2020年8月19日 21時11分配信『著作権侵害通知の「乱用」巡り、編み物ユーチューバー同士が争い 京都地裁初弁論』
この方の場合は訴訟を起こして、通報者の通報が不当だったことが認められた。
動画投稿サイト「ユーチューブ」に公開した動画が著作権侵害との指摘を受けて削除され、精神的苦痛を負ったとして、富山県のユーチューバーの女性が、京都市東山区の女性ユーチューバーら2人に計118万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が21日、京都地裁であった。長谷部幸弥裁判長は女性の動画は著作権侵害に当たらず、削除によって精神的苦痛を負ったとして、被告側に約7万円の賠償を命じた。
判決によると、原告女性と被告女性はともに編み物を編む場面や作品を動画で公開している。被告女性は昨年2月、ユーチューブ側に原告女性の著作権侵害を通知し、動画2本が削除された。
判決理由で長谷部裁判長は、原告女性と被告女性の動画を比較し、「ことさらに類似しているとは認められず、著作権侵害とは認められない」と指摘。「著作権侵害を通知する者は、侵害の有無について一定の確認を行うべき」とした上で、独自の見解で通知した行為に著しい注意義務違反があるとして被告女性の過失を認定した。
京都新聞2021年12月21日 「編み物ユーチューバーらに賠償命令 著作権侵害していない動画の削除要請で」
当該案件については認められたものの、一般的にコンテンツ作成者の権利を守るという風潮が社会的に要請されている・作成者が理不尽な言いがかりを付けられたときの救済策が整備されたという状況にまでは至っていない。現状でも、不当性を訴えるにも、かかる費用や精神的な負担が莫大なものとなり、同じような目に遭っても泣き寝入りを余儀なくされている人も多いと思われる。
被害者の権利を守る手段が乏しい
何も問題がないにネット上のコンテンツに対して、一度難癖を付けられると対抗手段がほとんどない。また精神的にも強い恐怖感と嫌悪感を感じ、日常生活にも支障が出る。
削除要請をするような輩は安易な気持ちでやっているのだろうが、そのことでコンテンツ作成者の人権を大きく侵害することになる。
作者の権利を守るということは、それを第一にしていかなければならないほど極めて重要なこと。
現行法でも権利は守られていないのに、改正法では余計に権利が守られなくのではないかという不安と危惧も感じる。